翌週の火曜日、授業が3限までだったので梓と美紀は学校近くのトイボックスというカフェで話し込んでいた。それぞれの前にはナントカカントカペチーノとかいう飲み物が置かれている。
「ふ~ん、薫さん、家までお見舞いに来てくれたんだ。それでどうなった?」
美紀が目じりを下げながら尋ねると、
「どうって、しばらく小説のこととか話して帰っていったよ」
「なんじゃそりゃーっ!!」
美紀が頭を抱えて叫んだ。そして急に真剣な顔になったかと思うと梓に人差し指を突きつける。
「ねえアズちゃん」
「は、はい」
「今日は真面目に答えてほしい」
「急にどうしたの?目が怖いよ美紀」
美紀の迫力に梓は押されている。
「アズちゃん、薫さんのこと好きだよね?」
「!?」
突然の指摘に梓は固まってしまった。
(私は薫さんのことが、好き)
美紀に指摘されるまでもなく事実だった。
(坂木梓は榊薫が好き)

「わかる...よね?」
「バレバレだって」
美紀の表情がふっと緩んで優しい顔になる。
「それでさ、アズちゃんは薫さんにその気持ちを伝えたいと思う?」
「それは...今は、このままがいいかな。薫さんや周りの友達との関係とかいろんなものが変わってしまうかもって思うと、少し怖い」
「そうか、まあアズちゃんならそうなるよねえ...でもさ、せっかく好きな人が自分の家まで来てくれたときくらいは、もうちょっと仲良くなれるように努力してみてもいいんじゃない?」
美紀がいたずらっぽく笑う。
「努力って、例えばどんな」
「露出の多い服を着るとか?」
「美紀だってよく知らないんじゃないの!」
自分の恋愛経験の乏しさは棚に上げて、偉そうに梓に意見してみた美紀だった。
だが意中の男性が家まで来てくれたというのに、学校にいるときと変わらない雰囲気で同じような話しかできなかったことに、梓は少しだけ落ち込んだ。