「今宵、見て見て」



やけに楽しそうな声につられて顔をあげると
あたしのピンで前髪を留めている駆くんがいた。


耳元に距離をつめて、彼は言うんだ。


「おそろい」


ドキッとした瞬間、彼は立ち上がった。


「じゃあ俺、体育だから行くね」


にっと白い歯を見せて笑う彼。


女の子っぽいピンクのピンでさえ、最初から駆くんのものだったみたいに似合う。


「もしかして体育ってバスケ?」


駆くんの後ろ姿に向かって聞いたのは、ルイちゃんで。


「うん。なんで?」と、駆くんは振り返った。



「駆くんってバスケうまいって聞いたから」


え?「そうなの?」


なんでも知ってるなぁ、ルイちゃんは。


駆くんとバスケなんてすごく似合う。


「……見てみたいな」



ついうっかりだった。ぽろっと本音が漏れちゃったんだ。

そしたら駆くんはフッと笑った。


「授業さぼって見においでよ」


「そ、そんなのできないよ。先生にバレるもん」


「保健室行くっていえば済むよ?」


もう、悪知恵ばっかり……。


「体育の先生にバレちゃうよ」




「そんなの俺が守るに決まってんだろ」



彼はいつも余裕綽々で。


「別に来なくてもいいよ。でもそのときは――」


あたしに距離を寄せて、首もとの絆創膏にふれた。



「――覚えとけよ?」


声が、おちる。


「……っ」


意地悪……。


駆くんはいたずらっぽく笑って「待ってるね」と、廊下を歩いて行った。



――彼の一挙一動にドキドキと鳴る胸が、痛いよ。