教室に取り残されたあたしと駆くんは、無意識に音羽くんの背中を見送っていて。



「え、俺いま宣戦布告された?」


駆くんの声で時が動きだす。


「あ!日誌……あたしが出しに行くのに!」


って、もう遅いよ……。
どれだけ迷惑かければ気がすむの、あたし。



「……おいおい今宵ー」



駆くんの手があたしの頭を犬でも撫でるかのようにわしゃわしゃとする。


「や、やめてよ……!」



「今宵はほんとによくモテんねぇ。音羽、完全に今宵狙いじゃん?」



「え?」



そういうふうには思えないけど……駆くんの考えすぎだと思う。


駆くんの呆れ笑いは、余裕綽々。


「まー、奪えるもんなら奪ってみろって話」


そう呟いた駆くんは楽しそうに続けた。



「さて、今宵ちゃん。なにしてあそぼっか?」



きゅうに、そんな人懐っこい笑顔しないで。

どうして、駆くんはあたしをドキドキさせるの。


……好きじゃないくせに。


駆くんって、一度でもあたしにドキドキしたこと、あるのかな……。