大人しそうでクールな雰囲気の彼は、黒板の日直欄を見る限り、音羽くんと言うらしい。



音羽って名字だよね。
珍しいな。でもなんか似合う。


「あの、ごめんね。名前なんだけど、おとはくん?おとはねくん?」


「おとは」


「そうなんだ。音羽(おとは)くん」


「うん」


のんびりした時間が流れてるみたいだなぁ。


隣の席で、背もたれに体を預けて、ぼーっと黒板を眺めている音羽くんののんびりした波長が、ちょうどいいのかも。



……って!
音羽くん、なんで帰ってないの?

なんですぐ気がついてあげられなかったんだろう。もう五分も経ってるのに!



「音羽くん、もう帰っていいよ?あたしがあとは全部やるから」


「ん?」


きょとんとあたしに顔を向けた彼は、



「いーよ。俺暇だから。日誌出しにいくよ」



「いや、それは駄目だよ……あたし今日の仕事はなにもかもやってもらっちゃったから」



「そんなことより」


首を傾けた音羽くんの静かな目があたしを凝視した。