繋がったままの電話の向こうで、衣擦れの音が聞こえる。


走って、息を切らせて、あたしを笑わせる、駆くんの声。


『つーか鍵しまってなかったのかよ』


「開いてたの。食事してたお店と扉が似てて間違えちゃって……」


『あーはいはい。お前はそういうのやりそうだよな』



真っ暗な部屋は心細いけど、不安定な電波の途切れかけの声が頼もしくて……。



……どうしていつも、助けてくれるの。



王子様みたいに、現れるの。



『着いた』



その声と同時にがちゃがちゃとドアノブの音が聞こえはじめた。