「世の中にどっからが浮気か、みたいな論争あるじゃん。俺的に、キスは浮気に入る」
駆くんは幻滅したように、ほんの少し口角をあげて。
「……みんな浮気すんね」
かすれ声は小さく空気を震わせた。
彼はもうあたしを見ていなかった。
今頭に浮かんでいるのはきっと二条先輩。
あたしは、彼の目の前で同じことを……。
駆くんは目を一度閉じて、フッと笑った。
「今宵のことは結構信じてたけどね。もう男に慣れちゃった?」
駆くんが踵を返した。
「……ちが、」
あたしが叫んで言葉に詰まって、すぐに音羽くんが声を出した。
「待って、涼元くん! 」
「ふたり、似たような顔して焦って、息ぴったりだね。ばかにしてんの?」
足を止めた駆くんは横目でちらっとあたしを視界に入れる。
「……俺、浮気する人だけは無理」
低く冷たい声でそう言うと乱暴にドアを開けて教室を出て行った。



