ねぇ、今宵。
いつんなったら玄関に足を踏み入れられるわけ?


根っこがはったように動かないね。

緊張しすぎだから。


仕方がないから俺は、ソワソワと指先の動く手を引いた。



「……うそだよ。なんもしねーよ」


呆れのまざった声だけど、俺の言葉は魔法のように効果覿面(てきめん)だったらしい。


今宵のかちこちの表情が和らいで、根っこは足に戻り、やっと玄関に踏み込んだ。


「おじゃまします……」


弱々しく、緊張であふれた声。色白の肌はつやっぽく赤らんでいる。



こんなの俺、我慢できると思う?


今宵は考えが甘いんだよ。


……さて、どうしよっかな。


にやり、ほんの少し口角を上げた俺のことなんて、ド緊張に侵されている今宵がきづくわけもなかった。