有無を言わせない、といったママの口調に、手を洗って身なりを整える。


それから、手慣れた手つきで軽く変装もする。


あそこまで落ち着きのないママは、私が誘拐されて以来、二度目だ。


もしかして、それに並ぶ何かがあった……?


それならば、パパか、お兄ちゃん達のうち誰かの身に何かあったと考えるのが妥当なところだ。


私はそこまで考えて、スーッと血の気が引いていくような気がした。


同時まだ10歳ながらも、それくらい予想することは、私にとって朝飯前なことだった。


「ママ…パパかお兄ちゃん達の誰かの身に何かあった……?」


パパの秘書の山吹さんの車に乗ってすぐ、ママに尋ねる。


聞きたくないと思いながらも、現実から目を逸らすわけにもいかない。


私の言葉に、ママは助手席から振り返った。