普段なら、家に着いてからはカナが俺の家に来る。
でも、今日は俺がカナの家に行く。
理由は1つ。カナが捻挫をしたからだ。
…しかも、登山の途中。
しかも、残りは男におんぶされながら登ったらしい。
そんなことを聞いて、俺が冷静でいられるはずもなく、完全に取り乱した。
…俺じゃない男の背中に、あの華奢な体を預け、しかもその男の名前を、下の名前で呼ぶ。
俺には何も出来ないし、捻挫に関してそんなに知識がある訳でもない。…どこから湧き出るこの敗北感に駆られながら家まで帰ってきた。
今からは完全にカナを甘やかす。
「お邪魔します…。」
カナの家のドアを開ける。
「シュウくん!ま、待って。お茶出すね。あ、コーヒーがいいんだっけ?
ちょっ、ちょっと待ってね……。」
なんて言いながらキッチンでアタフタするカナ。
……可愛いな。
と思いつつ、心配という気持ちが打ち勝つ。
「カナはお部屋で待ってて。
自分で用意するから。……カナは安静にしててください。」
「で、でも…私のお家だから、準備くらい私が……」
「何年通ってると思ってる?
コップの場所も、お湯の沸かし方も分かるから、カナは部屋にいて?」
そう言って、カナを先に部屋に戻す。
自分のことより他人の事が優先で、いつも優しい所ばかりみせるカナの悪い癖。
…俺にくらい頼ってくれればいいのになー、なんて思いながらも、十分カナの方から甘えてもらっている現実を思い出す。