千尋は、少し前に高校の世界史の授業でベトナム戦争について習った。アメリカやソ連など、各国の思惑が混じり合う複雑な背景から生じた戦争だと先生は言っていた。ベトナム戦争が終わったのは、1975年。千尋はベトナム戦争が終わるちょうど一年前にタイムスリップしているのだ。

「それで？お前は何者なんだ？」

女の子は再びナイフを千尋に突きつける。千尋は覚悟を決め、口を開いた。

「……私は、今から四十年ほど先の未来から来ました」

女の子は何も言わず千尋を見つめ続ける。千尋は言葉を続けた。

「私はかばんを持っていたはずです！あの中には、みなさんが見たことがないものが入っていたと思います！」

「……確かに、奇妙なものがいくつかあった。あれは未来で作られたものだと？」

「はい。ですが、未来のことをお話しすることはできません。未来が変わってしまうかもしれませんので……」

SFの設定などを思い出しながら千尋は言う。過去の人間に未来のことを教えるのはやはり危険だ。

「あの荷物、そしてこの状況、嘘はついていないだろう……」