しばらく2人は、その体勢のまま無言だった。



「あの…」



「ん?」



そろそろ離して欲しくて顔を上げると、優しい顔で覗き込まれて、パッと俯く。


綺麗な瞳が、あまりにも近すぎて。

艶のある黒髪にも、かすかに触れてしまいそうなくらいで。

頭が沸騰しそうに熱い。


廉くんはそれを、わかっててやってるんだろうか。



「いつも、自分のことではあんなにへたれのくせに。

変なとこで発揮するんだね、栞菜は」



「それは……」



「……嘘。
栞菜は優しいって、知ってるよ、俺」



優しくなんてない……わたし。


あんなに勇気が出たのは廉くんのことだからだよ。


そう思ったのは、胸にしまっておく。


廉くんが、わたしの体を抱きしめる腕に力を込めた。