5時からはじまる甘い罠。



「……ねえ。

声、かけられたくなかったら、無視して」




どのくらい時間が経ったのかわからない。


涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、目の前に更科くんがしゃがみこんでわたしを見ていた。




「あんた……いつもひとりでいるって聞いた。

……俺、あんたのこと、ぜんぜん、よくしらないけど。

偉そうなこと言えないけど。

でも……怯えてないでさ、戦わなきゃダメだよ。

変わりたいんでしょ」



その目はまっすぐに、わたしを見つめる。


驚くことも忘れて、わたしは惚けたように彼の真剣な眼差しに見惚れる。


ああ、この人って、なんて綺麗。


涙が出そうなほど。




「話すこと、伝えること、諦めていたはずなのに、……どうして泣いてるんだろう」



思わず、そう口に出していて。


突然訳のわからないことを言ってしまったと思うのに、更科くんはすこし視線を逸らして考えてから、すぐに答えた。




「それは、橘さん自身が、ほんとは諦めたくないと思ってるからじゃないの」