5時からはじまる甘い罠。





「それって、かなり古そうだけど。

大切なものなの?」


彼の聞き方には嫌味なところなんてないのに、わたしは恥ずかしくて顔もあげられない。


もう音のしない鈴。


汚い、古ぼけたもの。


そんなものを身につけていることを、この洗練された人に知られたのが恥ずかしい。



「……えーと」



彼が続けて何か言いかけた瞬間、わたしは思わず駆け出した。







「……っ」




教室の前の廊下を走り抜けて、全速力で階段を降りる。




「……うっ」




玄関まで来たとき、わたしはしゃがみこんだ。


弱虫。ダメなやつ。


言いたいことも言えないで、暗くて、自分のことばっかり。


だから独りぼっちなんだ。




「うっ……」




そう思ってあきらめていたはず。


こんな風に情けないのはいつものことのはず。




「うぅ~……」




なのになんでこんなに涙が出るの?