驚いて立ち止まると、わたしの足音に気づいていた彼はゆっくりと振り向いた。 「……あ。よかった。 まだ帰ってなくて」 彼は、廊下のドア近くに立ちすくんだままのわたしに、近づく。 「待ってたんだ。 鞄がまだ席にあったし。 俺、今日のこと謝りたくて。 それから、渡したいものも」 ……頭の全機能が停止している。 こんなときなのに、わたしは、彼の透き通る瞳に夕焼けが反射するさまを綺麗だと考えた。 緊張したときに心臓のあたりを握る癖は、ずっと昔から変わらない。 どうしよう。