結局ほかにどうすべきかもわからず、わたしは保健室の三原先生をたずねた。
ふらつくわたしを見て、心配そうにどうしたのか尋ねる先生に、「ちょっと顔をぶつけて」と言うと、先生は顔を蒼白にした。
この怪我が不調の理由じゃないとわたし自身はわかっているので、病院にいくべきという先生を焦りながら丁寧に説得する。
午後はずっと、保健室のベッドで休んだ。
眠ろうと目を閉じても、全然、駄目で。
いつのまにか、放課後のチャイムが響いていた。
わたしは、ゆっくりと起き上がると、机で仕事していた先生に声をかけた。
「ああ、顔色も戻った。もう大丈夫ね、1人で帰れそう?」
「……はい」
優しくて綺麗な保健室の先生。三原先生は、きれいな指先でわたしの腫れてしまった頬をなでてくれた。
「もう…。
だめよ橘さん、女の子なんだから。
あんまりやんちゃして、跡が残ったら大変。
せっかく、綺麗な顔なんだから」
先生がいうと、不思議。
普段なら素直に受け取れない言葉も、奥底に染み渡る気がする。
その優しさに、穏やかな声に、心を撫でられたような気持ちになって、わたしは少しだか泣きそうになった。
三原先生が人気の先生なの、よくわかる。
わたしとは真逆の人。
おだやかで、思いやりにあふれた、大人の女性だ。
…きらきらとした憧れは、いつもわたしに少しだけ、苦い。

