5時からはじまる甘い罠。




近くにいたクラスの女子たちからかけられる声。みんなの笑い声が重なる。


そんなのいつものことなのに、なんだか今はすごく恥ずかしく思えた。



「……わらし?」



耳慣れない単語に、不思議そうに眉を潜めた目の前の彼の視線から、早く逃れたくて、



「あっ、ちょ……」



彼がなにか言いかけたのにもかかわらず、わたしは駆け出した。


にげるな。


……弱虫。


頭の中でもう1人のわたしがいっているのに、足が止まらないから仕方ない。


どうしよう。


真面目だけがとりえなわたしが、授業をボイコットするなんて……。


…いつも通りやり過ごせばよかったのに。




わたしは誰もいない校舎裏まで逃げて。



立ち止まって、ふと気づく。




……彼は他の人とは明らかに違った。


はじめてだった。


あんなにまっすぐに、わたしの存在を見つめる人は。