異世界マルクス。80590年。
人類は遂に、魔王サタンを追い詰めていた。
しかし勇者ミキトの体力も残り僅か、強大な戦いの中、勝てないかも知れないと悟ったミキトは、サタンの一瞬の隙を狙って転移陣を始動させる。
不意をつかれたサタンは異世界マルクスより遥か遠い異次元世界、地球へと飛ばされた。







「ここは…どこだ…」

転移陣に入れられて時空の歪みを彷徨ったと思えば、見たこともない建物が沢山並んでいる。
人間も多いように見える。
さて、と腰を持ち上げ、俺は人間にここはどこだと聞いてみることにした。

「ここはどこだ」
「えぇっと、迷子かな?ここは渋谷だけど…」

渋谷、やはり聞いたことがない。
言語は魔法【言語調律】で、誰が何を言っているか理解出来るし、俺の言葉も理解出来るようになる。
そして俺は次に魔法【記憶掌握】を行った。
記憶掌握は相手の記憶を全て瞬時に理解出来る魔法。発動には相手に敵対心がない場合のみだ。
俺は通り掛かる人間の記憶を読み取り、この世界の規律を全て知ることが出来た。

ここは地球という世界で日本という国か、東京の渋谷という人の多い場所にいるらしい。
面倒だが、もう少し知見を広げられるまでは大人しく紛れ込んだ方がいいだろうと決した。

「君、未成年だよね?一緒に来てもらえる?」

俺に声を掛けたのは警察と呼ばれる、この国の秩序や法律を守る仕事の人間だ。
未成年とは20年を生きていない未成熟の人間のことだろうが…俺は今未成年の姿をしているのか?
俺は大人しく着いて行くことにした。

「ダメだよ、23時以降の未成年一人での外出は禁止されているんだよ?」
「すまない、行く宛がないのだ」
「その年で迷子はないだろうし…もしかして家出?両親と揉めたかい?」
「両親は存在していない」

警察の人間は「しまった」と言う顔を浮かべた。
彼の後方で俺を見ていた警察の人間と顔を合わせて何やら話をしている。
しばらくして俺に向き直った。

「児相(児童相談所)の人に相談してみるから、今日のところはそこへ行けるかな」
「承知した」

警察の掛け合いの元、都内の児童相談所へ身柄を引き取られることになった。
財布がなく所在も名前も不明、記憶喪失を疑われ、後日病院という施設へ行き、記憶喪失だと診断されることとなる。
俺の身体付きから高校生と推定された。
記憶がないと思われているのならそれはそれで都合がいい、このまま生活するか。
18歳までは児童相談所に居られるのだが、生年月日も不明だと言われ、取り敢えず16歳と仮定して近隣の高校に通わせてもらう流れとなった。

四月までの間に一般常識や最低限の学力を身に付けられ、迎える四月、俺は高校生になる。
名前は、佐藤真央。