ミゲルとの別れを考えていた夏羽だったが、ミゲルが言ってくれたのだ。

「Sabay na tayo umuwi(一緒に帰ろう)」

タガログ語をミゲルに教えてもらい、夏羽はフィリピンにミゲルと駆け落ちをした。今はミゲルの家族とともに暮らしている。

ミゲルの家族は、夏羽のことを快く迎えてくれた。ミゲルが事情を話していたらしく、「本当の家族と思ってくれていいからね」と笑ってくれた。

フィリピンでは、家族を大切にする習慣がある。夏羽はミゲルの親戚たちからも歓迎され、親戚が経営している服屋の店員として働くことになった。

ミゲルと付き合って六年、フィリピンに来て三年。夏羽はタガログ語は問題なく話せるようになり、フィリピン人の友達もたくさんできた。

しかし、心のどこかでは親の言葉に支配されているのだ。お前なんか生まれなければよかった、その言葉を思い出すたびに、夏羽の胸は苦しくなる。未だに親の悪夢でうなされているのだ。