なに、いま、すごいこと言われた気がするんだけど……

思考停止したように、何も考えられない。
言葉も出てこない。

「何だそれ」
亀集院さんの声。

ハッとして視線を向けると、啓志郎くんの肩越しに、亀集院さんが笑いをこらえているのが見えた。
「御曹司、未礼ちゃんのことめちゃくちゃ好きじゃん」

亀集院さんは、啓志郎くんが現れたことに驚いていない。

それどころか、こらえきれずについに笑い出した。
「御曹司、未礼ちゃん探すために、俺の方にも電話してきたんだよ。
澄ました御曹司の取り乱す姿が見れたら面白いと思って、来れば?って言ったけど、ホントに来たね(笑)」

頭が混乱してて、この状況まだ理解できてないんだけど。

亀集院さんが啓志郎くんに場所を教えたの?え?いつ?あの、バーの電話?

で、来たんだ、啓志郎くん。

啓志郎くんは、あたしから手を離し、体を亀集院さんに向け、一礼した。
もう息は落ち着いている。

亀集院さんは、手のひらを上にして、やれやれという仕草をして苦笑いした。
「残念。未礼ちゃん、今夜は御曹司に免じて引くよ。またね」

そして、啓志郎くんは、再度あたしに振り返り、「未礼、帰ろう。送る」とあたしの肩に手を掛けた。
さっきとは違う。
壊れそうなものに触れるように、とても優しく。