我妻教育3

バーで手を握られたことを思い返して、あのときと同じ緊張感が走った。
「そんな、冗談を…」

「冗談なんか言わないって」

ちょっと座ろうか、と近くのベンチへ促されるまま腰を掛けた。

何の気なしに来た道を振り返ると、奥にライトアップされた観覧車が見える。

「ね、考えてみてよ」

って言われても、考えるまでもないけど、少し考えてから言った。
「翔太さんとも釣り合わないですよ、あたしはもう一般人ですから」

亀集院家は、企業を幾つも所有する大資産家というだけでなく、何人もの政治家、さらには総理大臣まで輩出している名門中の名門。

恐れ多すぎる相手だ。

「家のことなんて気にしなくていいよ」

「そういう訳にはいかないですよ…」
恐れ多いってば。

「家のことなら、俺の家はすでに兄(次男)が継いでるからね。
その兄に跡取りが生まれたこともあって、継承権のない三男坊(俺)なんて、気ままなもんだよ」

「…そ、そうは言っても、やっぱりご家族には反対されると思いますよ」

「そんなことないよ。
俺が誰と付き合おうが、家からの干渉はない。
30越えてからは、むしろ誰でもいいから早く身を固めろって言われるくらいだよ」

困ったように笑う亀集院さんにつられて、あたしも微かに笑う。
「そうなんですか?」