我妻教育3

席に戻る途中に再度電話がかかってきたけど、切ってスマホの電源を落とした。
罪悪感で胸が痛い。

席に戻ると、亀集院さんがあたしのスマホに視線を走らせて言った。

「もしかして、松葉グループの御曹司?」

「え?」何で、分かったの?

啓志郎くんからの着信だってこと、あたしの表情で察したのか、亀集院さんは、やっぱり、と笑う。
「まだ君にご執心なんだ?」

「そういう訳では…」
座り直して、目の前のカクテルグラスに手をかける。

「少し前まで、小学生だったのにね。一途な子だね。
この前、代表と一緒にいるところに遭遇して、挨拶したんだけど、背も高くなって、顔つきも表情もすっかり大人になってて驚いたよ。
あ、顔つきはまだ若干子どもっぽさが残ってるかな」

啓志郎くんと会ったときのことを思い出してるのかな?
横目にうつる亀集院さんはグラスを傾けながらクスクス笑っている。

「…そうですね」
ぼんやりと、ピンク色のカクテルの上澄みにキラキラと浮かぶ細かな氷を眺めた。

「かなり優秀で将来有望な御曹司だって、話はよく聞くよ。
最近は、代表に一緒に付いて仕事もしてるみたいだし、すごいよね」

「ええ。啓志郎くんは、本当にスゴいんです。
あたしは、助けられてばっかりで…」

あたしの知らないところでも、あたしを助けようとしてくれる。
大切にされてるのが分かる。