我妻教育3

平静を装いつつも、酔ってるせいかな?それとも場の雰囲気のせいかな?男の人とこういう雰囲気、久し振りすぎて、頭が追いつかない。

「そんなことないよ」

「…嘘ばっかり」

手を離さないあたしもどうかしてる。

こんなにハイスペックで30代で独身って、絶対女たくさんいるから!
遊ばれてるだけだから!

亀集院さんは、あたしの手を握ったまま、反対の手で丸い氷が入ったウイスキーグラスを傾ける。
「でも、嬉しいな。モテそうって思ってくれるなんて、俺のこと良い男だって認めてくれてるってことでしょ」

「それは…」

スマホに着信が入って、反射的に手を離す。

啓志郎くんだ。

“もう会わないこと”
昼間、マイラ姫のマネージャーに言われたことが頭をよぎって躊躇した。

着信の画面を見ながら、出ることができない。

亀集院さんが「どうぞ」と促してくれたから、席を離れて電話に出た。

「優留ちゃんから聞いたんだけど、お祖父さん大丈夫だった?」
用は何?と聞くよりも先に聞いておきたいことだ。

『…聞いたのか、それならば問題ない。
大丈夫だ。心配かけて済まなかったな』

耳元にクリアに通る啓志郎くんの声。
大人の亀集院さんとは、やっぱ違うな。
低くなったけど、やっぱりまだ若い。

「そっか、良かった。…ごめんね、あたしが無理言って来てもらったから…」