「心配しないで下さい。
年の近い啓志郎さんが、ここまでのことができるっていうのに、僕もいつまでも甘えてられませんから」

掃除の手を止め、勇は啓志郎くんに向き合った。
啓志郎くんも掃除を中断し勇を見返す。

「父が心配でここについてきましたが、僕は逃げたわけではありませんから。
諦めてません。
時間がかかっても、いつか自分の力で取り戻してみせます。
きっと、姉さまも解ってくれると思います」

力強い勇の言葉。
真剣な面差しに、早朝の鋭い日射しが突き刺さるように眩しい。

「…そうか。頼もしいものだな」
啓志郎くんがフッとはにかむ。

「啓志郎さん程ではないです」
勇も微笑み返した。

邪魔できない気がして、その場を静かに離れた。

あたしの知らないところで、家のことで、そんな話があったなんて。

啓志郎くんが、家を売らずに済むように援助しようとしてくれてた。
それを勇は断った。
自分の力で取り戻すだなんて、勇がそんなこと考えていたなんて。
いつの間にこんなに強く成長してたんだろう。

目頭が熱くなる。

あたしも、クヨクヨしてられないじゃん。
あたしも、頑張るしかないじゃん。

それに啓志郎くん、投資で稼いでるって言ってたけど、どんだけ稼いでるの?!
…貴方って子は…どこまでスゴいの、もう怖いよ!

庭を抜け、酒蔵の表玄関に出た。

山指さんの息子さんや近所の人たちと一緒に、表通りを掃除をする義父がいた。