我妻教育3

「来てくれて、すごく、うれしいよ。ありがとう」

うれしい。
あたしのワガママに、まっすぐに付き合ってくれて。

「ならば、来た甲斐があったな」
啓志郎くんは目を細めた。

「せっかく来てくれたんだから、山指さんに紹介するね。
勇たちにも会って行って。喜ぶと思う」

「ああ、頼む」


酒蔵に向かう道のりを並んで歩く。

「本当だ、城下町の趣があるな」
啓志郎くんは周囲を見回したあと、あたしに顔を向けた。

「啓志郎くん、城下町にお殿様が偵察にでも降りてきた、みたいな感じだね。
お殿様!この町娘(あたし)がご案内させていただきます」

「未礼は面白いことを言う」
フッと笑って、前を向く。

こんな風に並んで歩いてると、旅行デートみたいだな。
あ、違う。お殿様を案内する町娘だった(笑)


天気はあいにく。
時折、突風が吹き荒れる。

「!!」
風で道端に落ちていた何か大きいものが舞い上がり、こっちに向かって飛んできた。

「こっちだ」
躊躇なくあたしを引き寄せ、前に立った。
「キャッ!」
ガードするために突き出した腕に、その何かがバシッとぶつかり、どこかへ飛んでいった。

「啓志郎くん大丈夫?」

「問題ない。段ボールの破片のようなものだ。
未礼は当たらなかったか?」

「あたしは全然。ありがと…」

啓志郎くんが、かばってくれたから。
いつの間にか逞しくなっちゃって。