我妻教育3

あたし自身が、本気じゃなかった。

だって啓志郎くんが引かないから。
つい、勢いで意地悪言ってしまっただけなんだけど…。

ホントに来るなんて、啓志郎くん今本社にいるんでしょ?
忙しいんじゃないの?


カフェでコーヒー飲みながら時間を潰す。

静かで落ち着いた居心地の良い店。
置いてある本に目を通す。
サイフォンのいい香り。

あたしの気持ちも少し落ち着いてきた。

料理教室の仕事。
契約社員継続でもまた頑張ったら、また正社員への道が拓ける可能性はあるのかな?

転職を促されてる時点で望みは薄そうだけど。
契約更新自体されない可能性もあるんだし…。

あーあ、と背伸びする。

取り合えず、 このまま年末まで働きながら、その間に新しい仕事を探すのが堅実なんだろうな…。


三時間近くもかけて、夕方頃に、啓志郎くんが来た。

「来ると言っただろう。私は冗談は言わぬ」

駅まで迎えに行ったあたしの前に、さも当たり前のように堂々と現れた。

「まさか、ほんとに来てくれるなんて…」

申し訳ない気持ちでいっぱいだったのに、列車から降り立つ姿を見た瞬間、心を占めたのは嬉しさだった。

「何かあったのか?」

「ううん、大丈夫。ごめん、無理言ってきてもらったのに、特に用もなくて…」

「用がなくとも、会いたいと思ってくれたのだろう?
それで構わぬ。私が来ると言ったのだ」