我妻教育3

『どうした?何かあったのか?』

黙ったあたしを心配している。

「あ、ううん、何も…」
感傷的になってるのは、風情ある町並みのせいかな。

『なら、良いのだが…。
もしも、私に出来ることがあれば言ってくれ。
何かあったら、すぐに連絡してくれ』

何かあったらって、…言えるわけないじゃん。

非正規雇用で、正規になれないとか。
そんな小さなスケールの話、啓志郎くんに理解できるはずない。

それに、啓志郎くんがマイラ姫を連れてきさえしなければ…なんて口が裂けても言いたくない。
誰も悪くないんだから。

嫌な気分になる。

「…電話したって、遠くにいるのに、どうもできないでしょ」

『会いに行く』

「啓志郎くんは、いつまで日本にいるんだっけ」

『明後日の水曜の午後の便で発つ予定だ』

「ふーん、じゃあ、アメリカから、あたしの為に飛んできてくれるの?」

『未礼が望むなら』

「嘘ばっかり」

『嘘ではない』

「無理でしょ?
だって、今日本にいるのだって、丁度学校が休みだからでしょ?
わざわざあたしの為だけに、あたしの所に来れないでしょ」

『行く。未礼が私を必要とするならばすぐに』

「じゃあ今来てよ。今すぐ会いたいな~、なーんて」

『承知した。すぐに行く』

「…ほんとに?」

冗談でしょ?