我妻教育3

町中を散策する。

日中なのに分厚い雲で薄暗い。
そして、蒸し暑い。

人通りの途切れた町中で、強い風が吹き抜ける。
木々が揺れて大きくざわめく。

歩を止める。
ザワザワしてる。胸の中。

自分一人取り残されたような。
あたし、こんなところで一人、何してるんだろう。

全てを失ってから、新しい世界で居場所を作った家族。
生活を変える気がなくて、残ったあたし一人だけ……

頑張ってたのにな…

料理を発信していく仕事がしたい。
料理教室の講師になって、頑張っていこうって。

それなのに、やりたい仕事から外されて、転職を促されてる状態だなんて。悲しすぎる。

どうしたらいいんだろう。

立ち尽くしていたら、啓志郎くんから電話がかかってきた。
「もしもし。どうしたの?」

『いや、特に用はないのだが…』

「啓志郎くん今日は仕事?」

『ああ、本社にいる。今、休憩中だ。未礼も今昼休憩中か?』

「ううん。夏休み取ってる。今、勇のところにきてる」

逃避行中。

『ああ、確か酒蔵の…』

「そう。近所ブラブラしてるよ。古い町並みが雰囲気あって素敵だよ。
もう、このままここに住んじゃおうかなー…なんて……」

本当に逃避行してしまいたい。
いっそ…

『未礼…?』

いっそ、ここに逃げて、新しくやり直す?

だって、講師になりたいのに、正社員になれなきゃ、あそこにいる意味ないもん。

『どうかしたか?』