「あたしなら大丈夫だよ~。
それよりも早く行こう。早く会いたい」

啓志郎くんが心配してくれるのは分かるけど、神妙な空気にはしたくない。
今日の目的は、別なんだから。

「…ああ、そうだな。行こうか」

「うん」


エレベーターに乗り込み、ボタンを押す啓志郎くんに話しかけた。

「啓志郎くん、日本にはいつ帰ってきたの?」

「昨夜の最終の便で帰国した」

「今回は、どれくらい日本にいるの?」

「一週間ほどいるつもりだ」

「そうなんだ~。ゆっくりでき…そうもないかな?」

前回帰国したときも忙しそうだった。

「そうだな…。父の仕事を手伝う予定になってはいるが、多少の余裕はありそうだ」

「そっか。ゆっくりできるといいね」

ニューヨークの高校に通う啓志郎くん。
今は夏休み。

日本に帰国した理由は、この病院に入院する人を見舞う為。


個室をノックをして部屋に入ると、優しそうなおばあさんが、少し驚いて、心底嬉しそうにニッコリ微笑んだ。

「これはこれは、啓志郎お坊っちゃまに未礼お嬢様。
お揃いで来てくださったの」


「チヨさぁーんッ」

駆け寄りながら、思わず涙腺が弛む。
ニコニコ笑うチヨさんが大好き。