2人が出会ったのは、藤宮さんが1年生だった去年の春。


部活見学に訪れた時だった。


藤宮さんが、「失礼します」と声をかけても返事はなく、そっと中に入ると、声が聞こえてきたのだという。



「珠の緒よ たえねばたえね ながらえば
忍ぶることの 弱りもぞする」



それは藤宮さんが大好きな一句で、式子内親王の気持ちを投影したような、切なくも燃え盛る恋心を表現したその声に、藤宮さんは惹かれた。


導かれるように声のする方に行くと、森下先輩が背筋をピンと伸ばし、正座をして読み手の練習をしている所だったのだが、先輩は藤宮さんに気づき、練習を中断した。


先輩は藤宮さんにお茶を出してくれたらしいが、またその姿勢も美しく、藤宮さんは自分でも信じられないくらい、森下先輩に見とれてしまった。



かるた部に入って、この声の元でかるたを取りたい。


森下先輩の声で読まれたあの札を取りたい。


そして、藤宮さんは入部を決意したのだ。