「星名さんは...その...好きな人とかいらっしゃらないんですか?」



昇降口で靴を履き替えている所で藤宮さんは突然質問して来た。


わたしは思い浮かんで来た顔を振り払ってから



「わたしはいません。いないから父の手伝いばかりがんばっているんです」



と言った。



「そうなんですか...。わたしはてっきりあの方がお好きなのかと...」


「ほへ?」



あの方...?



「赤星さんです。衣装選びの時もお二人は別室で選ばれていたでしょう?赤星さんと星名さんはお付き合いなされているのかと...」


「いやいや、それはないですよ!わたしは赤星くんにはもったいないです!しかもわたし赤星くんにやましい感情持ったことないですから!」


「本当になんとも思っていらっしゃらない?」


「はい!断じてございません!」



藤宮さんは口元を隠しながら、上品に笑ってた。


何度見ても可愛らしい。


そして、お美しい。


宝石で言えば、アメジストのような女性だと思った。


と、見とれている場合でもない。


話題をそらさねば。



「わたしのことはどうでもいいんですが、藤宮さんは森下先輩とどうにかなりましたか?園田さんがかなり心配してらっしゃいましたよ」


「も...も...森下先輩と...ですか?!」



辺りをキョロキョロと見回す藤宮さん。


誰かに聞かれていたら...と焦ったのだろう。


あろうことか、女子生徒の集団が何組も廊下を歩いてこちらに向かってくる。


これはまずいと思い、わたしは藤宮さんを外へ連れ出した。


顔を完熟トマトのように真っ赤にし、足取りもふらふら。


雪のように溶けていきそうな感じ。



「すみません、余計なことを聞いてしまって...」



わたしが謝ると、藤宮さんは首が取れそうなくらいぶんぶん真横に振った。



「いえいえ。過剰反応してしまう私が悪いんです...。ここ一週間はお会いしていなかったので忘れることが出来ていたのですが、また明日から部活でお会いすることになると思うと、なんというか...その...照れくさくて」


「一緒に帰られた時に何か進展が?」


「いえ、そんなことはないのですが...。その...他愛ないお話でも、森下先輩とお話ししていると楽しいんです。短い時間でも一緒に居られるのが嬉しくて嬉しくて...。こんな気持ちになるのは初めてなんです。どうしようもないくらい、森下先輩に惹かれているんです」



そう言った後に藤宮さんは森下先輩との出会いを話してくれた。