「波琉くん、顔出しなよ。窒息しちゃうよ」



オレは何も答えない。


とにかく寝たふりだ。


汐泉が大人しくなるまで寝たふりを続けよう。



「波琉くん」



汐泉がオレの腰に腕を回し、全身を密着させてくる。


汐泉の全部を背中で感じる。


しかし、オレは興奮するどころか、どんどん血の気が引いていき、本当に窒息してしまいそうになる。


このまま中にいるのは危険だと判断し、オレは右手で布団を払いのけると、全力で呼吸をした。


はあはあはあ...。


ダメだ。


このままじゃオレ、死ぬ。


呼吸しても生きている心地のしないオレに魔の手が伸びる。



「波琉くん、こっち向いてよ」



汐泉はオレが苦しんでいる間にオレの上に乗っかっていた。


見ようとしなくても見てしまう。


青い下着姿でオレに迫ってくる。



「波琉くん、キスしてくれないの?」



女1人くらい、力で払うことはできる。


だが、そんなことをしたらオレは人間として終わりだ。



「ねえ、波琉くん、せっかく来たんだからさ、しようよ。私たち、もう付き合って8ヶ月だよ。次に行こうよ。ね?」


「出来ない」



オレは言った。


自然と口から出ていた。



「どういうこと?」


「汐泉のことが...好きじゃなくなったんだ」


「えっ?」



汐泉がオレの腹に拳を叩き付ける。



「ねえ、それ、本気で言ってるの?」


「本気。オレはウソをつきたくない」



そしてまた1発くらう。


1発どころじゃない。


2発も3発も何発も殴ってくる。


オレはただただ耐えた。


こんな痛みなど、星名が受けた痛みの数分の1に過ぎないだろう。


受けて当然の罰だ。


仕方がない。



「どうして?!どうして私じゃダメなの?!私、何も悪いことしてない!」


「汐泉、それは違う」


「何が違うの?」


「汐泉は星名をいじめた」


「だからなんなの?あの子が私の邪魔をするから悪いんじゃない!恨まれるようなことをしてるのが悪いんでしょ?!」



汐泉。


キミはオレをどんだけ傷付けたら気が済むんだ?


キミを好きになったオレをこれ以上後悔させないでくれよ。


いつから、


いつから汐泉はこんな人間になってしまったんだ?


それともオレが汐泉を知らなすぎたのか?


汐泉はオレの顔を泣きながらビンタしてはキスを繰り返した。


汐泉の凶器的な愛が毒のようにオレの体内を巡る。



「こんなに好きなのに...」



好きだけではどうにもならない恋がある。


汐泉。


ごめん。


オレは、汐泉の好きには答えられないんだ。


だから、もう...。



「汐泉」



オレは起き上がって汐泉を強く抱きしめた。