「大丈夫。俺のことより今は自分のことだよ。」
匡祐が千晃の肩をさすった。
すると千晃は顔を上げて微笑む。
「大丈夫です。うれしいことに、休んでいた時間の分の仕事がたくさんあるみたいで・・・。」
千晃の微笑みが無理していると匡祐にはわかっている。
「俺も一緒に中に入っていいかな?」
匡祐の提案に千晃が驚く。
「大丈夫です。これ以上お時間は・・・」
「俺がそうしたいんだ。コーヒーでも飲みたいし。」
匡祐の言葉に千晃は小さくうなずいた。

千晃が会社に入るということは事件の現場ももう一度通るということだ。
そんな所に匡祐は千晃を一人で向かわせたくなかった。

匡祐なりの気遣いが今の千晃はうれしくてその言葉を断れなかった。
「ありがとうございます」
そう言って微笑む千晃。今度はぎこちなさのない心からの微笑みだと匡祐は気づいていた。