匡祐と千晃が剣持を見る。
剣持はまっすぐに千晃のもとへ向かい、携帯電話を差し出した。
「お父様です」
その言葉に千晃は携帯電話を手にした。

一瞬でも、もしかしたら心配してくれたのかもしれないと期待した自分に、千晃はばかだったと後悔する電話の内容だった。
『いつまで病院へいるつもりだ。ぐずぐずしていないでさっさと仕事に戻りなさい。おおごとにするな。』
一方的に話す父の言葉に再び涙が流れた。

『そこに福山もいるんだろう、福山と一緒に病院の正面から車に乗りなさい。報道陣には何も話さず車に一緒に乗り込みなさい。絶好の機会だ』

父はそういうと電話を切った。

電話が切れた後も千晃は携帯電話を耳に当てたままでいた。
ただぼーっと一点を見つめたまま次々に涙が流れる。