あなたの愛に包まれて

「母の病気が分かって途方に暮れていた時に父から連絡があったんだ。」
「・・・」
「生まれて初めて聞く父親の声だった。」
匡祐の微笑みが消える。
「母は父の悪口なんて一言も言わなくてさ。誰かを恨んだり、自分の父親を憎んで育たないようにっていう母の想いだったと思うんだけどさ。俺は悔しくてその時父を恨んだ。憎んだ。」
「・・・」
「だって、母親の命と引き換えに俺に財閥の後継者になれって・・・」
匡祐が言葉に詰まる。
見えない心の涙が千晃には見えるような気がした。
当時の匡祐の気持ちを考えると自分の胸も痛むのに。匡祐は誰にも頼れず・・・。

「さっきの話しの続き」
匡祐が力から千晃に視線を移した。
「俺は母の治療がすんだら財閥の後継者を降りるつもりです。」
敬語に戻った匡祐の目は覚悟がにじんでいる。
「それまでに、弟の居場所を俺なりに築きたいと思っています。こんな施設じゃなくてもっと力が笑顔で暮らせるような楽しい場所を作って、ちゃんと将来を確立させてあげたいと思っています。」