あなたの愛に包まれて

「弟がダウン症じゃなかったら、俺は母と二人で一生暮らしていたと思うんだ。こんな世界は見ることがなかった。」
匡祐は少し離れた場所でちぎり絵をしている力を見ながら千晃に話していた。
「父は俺の存在を知っていても一切関与してこなかった。俺の母が送る俺の成長の記録も着払いで返すくらい、俺の存在自体拒否してたんだ。母はハウスキーパーの仕事とか新聞配達とか深夜のスーパーの積み荷をおろす仕事とかを掛け持ちして俺を育ててくれた。」
マスコミの情報にはそこまではなかった。
千晃は匡祐がかなり苦労してきたことがすぐに伝わった。
「それでも幸せだったよ。貧しくても、幸せだった。誕生日とかクリスマスとか正月とか七夕とか、母はイベントはすごく大切にしてくれてさ。思い出だっていっぱいあるんだ。」
「素敵なお母さまなんですね」
「今、入院してるんだ。重い心臓の病気でさ。」
匡祐が力を見たまま微笑む。
「海外でしかできない治療で、かなり高額の手術代や入院費がかかったんだ。」
千晃が匡祐の話の続きが分かり胸が痛む。
「苦労して俺を育ててくれてさ。自分の身なりなんて気にしないで、その分節約してイベントの時に豪華な食べ物とかプレゼント用意してくれてさ。俺がいなかったら、もっと違う人生が母にはあったって思うんだ。」
「・・・」