「へ?」
千晃は自分からでた気の抜けた声に驚く。
「窮屈そうな靴。」
匡祐は千晃の足元にかがんだまま、千晃のかかとに触れた。
「靴擦れ、痛そう。」
そんなことに気が付いてくれる人なんていなかったのに。

「脱いじゃいなよ、君にこの靴はあってない」
匡祐の言葉に剣持が一歩前に出る。
「しかしこの靴もお嬢様の経営されるアパレルブランドの新作です。本日のお披露目には履いていただかないと困ります。」
匡祐は剣持の方を見ず、靴擦れしている千晃のかかとに触れたまま話す。
その声は再び控室の中に響き渡るような貫禄を感じる声だった。

「新作の発表も大切かもしれませんし、確かにいいデザインの靴だ。」
剣持がその言葉に満足そうに頷く。
「でも、彼女の足にはあってない。マネキンじゃあるまいし。人には合う合わないがあるでしょう。そこに気づきませんか?」
匡祐は剣持を初めて見た。