「そういうことです。私はすでに神崎には必要のない人間なんです。」
剣持は力なく微笑んだ。
「申し訳ありません。私の責任でもあります。」
頭を下げる匡祐に剣持は穏やかな声をかける。
「匡祐様の責任ではありません。私も長年の肩の荷が下りてほっとしています。移動になる前に、私はお嬢様の頭を撫でたんです。初めてほめることができました。」
匡祐をまっすぐに見ながら剣持は話した。昔から千晃が一人頑張ってきたこと。両親の愛情を求めて必死に努力してきたこと。そんな千晃に自分は厳しさしか向けずに来たこと。
そして、千晃の頭を撫でながら千晃を初めてほめることができたこと。
「私はもう心残りはありません。」
剣持は神崎をやめて、仕事を探す予定だと匡祐たちに話をした。
「匡祐様。」
剣持は別れる前に匡祐に話した。
「お嬢様が心配です。」
剣持は千晃が父から言われたことを打ち明けた。
「お嬢様はご自分の存在が匡祐様を脅かす存在になってしまわれることを気にされています。」
匡祐は今すぐ千晃と会い抱きしめたい衝動にかられた。