「覚えてたんだな笑」
『そりゃ覚えてるよ!』


ハハハ、と彼は笑うとまたイヤホンに目を向けた。


「俺が好きなのよく分かったな」
『それは…彼女ですから!』


自分で言っているけど、結構恥ずかしい。
ハハと、笑いで誤魔化す。
それと同時に彼もフッと笑う。
顔が紅くなっているのが分かった。


「つけてみよ…」


そう言って、イヤホンをつける彼。
紅い顔を見られるのが恥ずかしくて下を向いていたら、自分の右耳にイヤホンがつけられていた。


『…ん?』


急いで顔を上げる。
そこには特に気にする様子もなくスマホを触って曲を選んでいる彼がいた。
私はすかさずイヤホンを外す。


『折角新しいイヤホンなのに、つけなくていいの?』


そう声を掛けたが、特に彼は何も反応しなかった。


『ねーぇ?新しいイヤホンだよ?私なんかにつけていいの?』


そう言うと彼は呆れた顔をしてこちらを見てきた。


『…え?何?』
「さっき、お前なんて言ってたっけ?」


え…お、怒ってる?


『え…えーと…あ、新しいイヤホンは自分がつけたら?って…』
「その前。」
『そ…その前?え…?』
「お前、『彼女だから』って言ったよな?」


えぇーと…あぁ、そういえば。
言ったは言ったけど…。


「だからだよ」


彼はそういうと、またスマホに顔を戻す。
…ん?
だからって…?
私が少しの間困惑していると、彼が今度は溜息をつきながらこちらを向いた。


「分・か・れ」


そう言いながら彼は私のおでこにぴんとデコピンをした。
その瞬間、彼が何を言いたいのかが解った。
顔が更に紅くなる。


「…ほら、早く」


彼は私を急かすようにイヤホンを持っている私の手を指さした。


『ふふふっ』


つい、笑みが零れてしまう。
『__“今日”という日は、なんと素晴らしいものなのだろうか。
1年に1度、いや一生に一度だ。
世界にたった一度だけ。』
今になって、本当にそうなのかもしれないな、なんて思う。
彼は少し驚いたように私を見た。


「…どうした?」
『い、いや、何にもないよ!…ふふっ』
「…ふーん。変なの。」


彼はまた、向こうを向いた。
何故私が笑ってしまったかって?
それはね、彼のせいだよ。


「素直じゃないねぇ~…」


彼に聞こえない様にぼそっと呟く。


暗いからバレてないかと思った?







ううん。
完璧にバレてるけどね、
あなたの顔が紅くなってるってこと。