「投げたら入るだろ」


そんなことを言う彼。
いやいや、こんなの投げたらダメでしょ!
っていうか、


『そっちがいれてよ!背はそっちのほうが高いでしょ!』
「ごめんごめん、両手塞がってるんだ」


と言いながら両手に一本ずつ持っているほうきを見せる。


『いやいや、しまったらいいじゃん!』
「しまいたいのに誰かがロッカーの前にいるから。」


そう言って私を見る。
私は1歩下がって、手を広げて見せる。


『はい!どいたよ!』
「あー重い。こんな重いものは動かせないなぁ。」 


と彼は言いながらだらっとして項垂(うなだ)れる。


「誰かさんが頑張ってちりとりを入れているところを見たら動かせるのになぁ。」


ちらっと私の目を見る。


『あのねぇ!からかってるでしょ!』
「うん。そうだよ。」


けろっとした顔でそう言う。
あのねぇ!
届かないもんは届かないの!
分かってる?


『ムリ!入んない!』
「はい頑張れ頑張れー」
『聞いてた?』
「うん」
『ム・リ・な・の!』
「頑張れー」
『も~!』


いつになったら終わるのだろうか。
だけどそんな馬鹿なやりとりが楽しくて楽しくて。
もっと笑っていたいな、なんて思う。
私は彼に微笑んだ。
彼もふっと微笑み返す。
もっともっと一緒に笑っていようね、
もっともっと笑わしてね、
もっともっと笑わしてあげるから。




❧その頃教室では―――
“またやってるよ、あのバカップル”
“あいつも懲りないねー、からかうの”
“でもそれで楽しそうにする彼女がいるってなぁ…”
“あー羨ましー。俺も早くリア充になりたいわー”
“それよりさ、もう一回ちりとり要るんでしょ?”
“うん。どうやって声かける?”
“う~ん…しょーがない。もうちょい時間あげるわ。”
“うん、そうしようか。くそー、羨ましい…!”