イヤホン越しにも分かるよう威嚇の声を発した後、山本さんに向き直る。


「ここからが肝心なんですが・・

硫酸魔は、山本さんが映画のオーディションに合格した事を知っていたからこそ、

あなたを狙ったと言えます。」


「やっぱり・・そうなんですね・・。」


「この話を当時、誰に話しましたか?

もしくはあなたの事がメディアを通じて世に発信されていたのか・・?

“誰が知っていたか”という点から、
俺達は犯人を再捜査しています。」


「まだクランクイン前だったので、

私のような無名役者の情報が公開されていたとは思えません。

だから知っていたのは極僅かなスタッフに・・・・。」


「・・・・・・。」


「私の周りの友人・知人・・全員です。」


「全員ですか・・。」


「正直・・浮かれていました。
鼻は天狗のように伸びていました。

バイト仲間、友人。
周りにたくさん自慢して・・

調子に乗っていたのは否めません。」





・・これじゃダメだ・・。
全然容疑者が浮上しない・・・。


でも映画出演なんてこんなコアな情報、
硫酸魔はどうやって手に入れたんだ?


山本さんがTwitterで“映画決まりました!”なんて呟いてたら話は別だが、

35年前はスマホじゃなくて黒電話。


そう考えると・・・山本さんの周りにいた人間から漏れ伝わったのか・・

それとも映画スタッフの中に硫酸魔がいたのか・・。




「・・あ・・・・。」


その時、山本さんが急に何かを思い出したかのようにベンチを立ち上がった。


「どうしました?」


「今・・・神野さんと話していたら・・
・・・・あの時の記憶が一気に・・。」


「・・どんな?」