「・・・ミ。・・サトミ。」


「・・う、うん?」


「どうした?」


「ううん。何でもない。」


「話聞いてたか?」


「・・ごめん・・・・ごめんっ・・!」


「・・・?」




割り箸が床に落ちる。

お酒は一滴も飲んでいないのに、

目の前の夜ご飯がグニャグニャし始めた途端、強烈な吐き気に襲われる。



「・・オェッ・・オェッ・・!!」


なんとか間に合った洗面台。


思い切って吐き出せば良くなる。

・・そう思ったのに・・
口からは何も出てこない。



「なんで・・オェッ・・オェッ・・!!」


「・・・・大丈夫か?」


「・・・ごめん・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・サトミ・・・・・・。」


「・・・・?」


「・・お前まさか・・
妊娠してるんじゃないのか?」


「え・・・・。」


「明日、病院に行こう。」


「・・・・・・うん・・・。」



「・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・。」



「・・・コウスケさん・・?」


「・・・・うん?」


「笑ってるの・・?」


「当たり前だろ?俺とお前の子供が出来たかもしれないんだぞ?」


「・・・・うん・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」







コウスケさんは、二種類の笑顔を持っている。


一つは・・・

Barカウンターに立った時、
テレビを見ている時、
お風呂に入っている時、
抱いてくれる時。

背後にサンサンとした光が浮かぶような、
眩しい笑顔・・。



もう一つは・・・

Barに訪れるお客さんの話をする時、
その人が持つ“幸せ”を話す時、
私にマスクとニット帽を被せて送り出す時。


背後にどす黒い闇が浮かび上がるような、
不気味な笑顔・・。




コウスケさん・・どうして今・・
2つ目を浮かべたの・・・・?