クローゼット番外編~愛する君への贈り物

店は、そこそこの広さがあったが、お客は数人だった。
俺は、適当に食べるものと酒を注文した。



「見ない顔だな。」

突然、俺の向かいに若い男が座りそんなことを言った。
男は手にグラスを持ち、少々酔っているようだった。



「あぁ、今日着いたばかりなんだ。」

酒はひとりで飲むよりも相手がいた方が良い。
俺は、男に返事をした。



「見たところ、病人ではなさそうだな。
貴族の見舞いか、或いは手伝いか?」

「いや、良い所だって聞いたから、旅行に来たんだ。」

「旅行だぁ?こんなところ、あんたみたいな男には何も面白くないぜ。
旅行なら、あと何十年か後に来るべきだな。」

どうやら、ここに住む者にとって、ここはあまり良い場所ではないようだ。



「そういうあんたは、ここで何をやってるんだ?」

「俺は診療所で働いてるんだ。」

「医者か?」

「まさか。ただの下働きさ。
だけど、ここには貴族が多いから、けっこう実入りは良いんだぜ。」



貴族…その言葉に、心臓がビクンと跳ねた。
その言葉がきっかけとなり、また俺の心の中はミシェルのことでいっぱいになった。



「し、診療所か…
この町には診療所はたくさんあるのか?」

声が震えないように…
極めて、何気ないふりをしてそう言った。