そのうちの一つを手に取って、桜は隣をぽんと叩く。

桃は涙をこぼしながら素直に従った。

「牧野くんに、騙しててごめんなさいって……」

「言ったの」

「うん」

「そっか」

桜は紅茶を口に含む。高い香気が漂っている。甘くはないのに柔らかい味がした。

「牧野くんはなんて?」

「聞きたくなくて、走って帰ってきちゃった」

「そっか」

「桜ちゃん、ごめん、学校でなにか言われるかもしれない……」

「気にしないでいいのに」

心の底からそう思った。睡眠が混乱する心を落ち着かせたらしい。

妹が可愛くて仕方ない。昔から、桃の涙に桜は弱いのだ。