五割増で男前な牧野を前にして、桃は試合の途中から考え続けてきたことを、なんとか言葉にしようとする。

いい機会だ。言うなら今しかない。

「──あの!」

「ん?」

「好きですっ!」

ためらうな。ためらったら言えなくなる。

桃は勢いだけで喋り倒す。牧野の表情も見ないようにして。

「一目惚れでした、それで、姉に無理を言ったんです! 私……私、は、関谷桃といいます。桜ちゃんは、双子の姉で。──騙しててごめんなさい! 試合見れてよかったです!」

ばっ、と顔を上げる。

階段の段差分、ほんの少しだけ下にある牧野の顔を焼きつける。

──大好きです。

聞こえるか聞こえないか、蚊の鳴くような声で呟いて、桃は身を翻し、階段を駆け上がった。

「え、待っ──」

牧野の声が追いすがり、桃の右手に熱いものが一瞬だけ触れた。

直後野太い声が響き渡る。

「牧野ぉ!」

「あっはい! いやえっと!」

桃は階下には目もくれず、全力で足を動かした。

視界がぼやけて走りにくかった。