桃は彼の姿を電車の中から見た。

電車が停車したのとは反対側のホームで、彼はスポーツバッグを肩から提げていた。

短い黒髪。がっしりした体つき。

友だちだろうか、同じ制服の男子高校生と話をしていて、ほんの僅かに微笑んだ。

その一瞬の微笑みが桃の呼吸を止めたのだ。

次の瞬間には桃の心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなっていた。

なにも考えられなくて、いつの間にか家にいて、そう、彼が芍薬の生徒であると気がついた。

そんな折に桜が帰ってきたので、無我夢中で泣きついたのだ。