ものすごく自然に彼が桜の手を握ったので、今度こそ桜は顔を上げた。

宮沢はまっすぐに桜を見ていた。からかいやおどけた笑みもなく。ただ無表情に。

「……さっきの……」

「悪かったな。勝手に彼女ってことにして」

桜の言葉を遮るようにそう言って、彼は踵を返す。向かう先は駅だ。

「あの子を、誤魔化すため?」

「あーうん。隣のクラスのやつ。あのまま騒がれても面倒だからさ」

「あの子……」

あなたに、気があるんじゃないの。

言おうと思ったのに、言葉は喉の奥に引っかかって出てこなかった。

でも多分、宮沢は察したと思う。

「女ってのは、難しいよな」

「……私にとっては、男子の方がよくわかんないよ」

二度しか会ったことのない女を彼女だと、そんな嘘の紹介を容易くできるのはなぜ。誰かに見られたら誤解されるかもしれないのに、可愛らしいお店でパンケーキなんか。

──当たり前みたいに、手を繋ぐのは、どうして。