まとめた髪を覆い隠すように、カーキ色の帽子をかぶる。

化粧はしない。得意でもない。

鏡台から目を逸らしかけたとき、無造作に置いてあったリップが目に止まった。

桃が桜に買ってきたものである。

桜ちゃん、色々ほんとにありがとう! これ、お礼の品! 絶対似合うから、上品なほんのり桜リップ! ちなみに私も同じメーカーの持ってる、あどけなく愛され桃リップ!

いらない、使わない、と言ったのだが、聞いちゃいなかった。

「…………」

なぜそんな気になったのかはわからない。

桜は薄いピンク色を唇にのせて、お守りかなにかのように、リップを鞄に突っ込んだ。

もう駅に向かわなくてはならない。待ち合わせの時間は刻々と迫っている。

帽子をかぶり直し、桜は扉を開けた。