「そろそろ行った方がいいんじゃない。混むよ、多分」

「あ……うん。……いってきますっ!」

「いってらっしゃい」

誤魔化されたような気もするが、そんなことを考えている余裕はない。

これから牧野の試合の応援に向かうのだ。

最大限に、かつ清楚な感じに、可愛くしたつもりだ。

初夏の空気を漂わせるカゴバッグを担ぎあげ、桃はもう一度桜を見た。

彼女は今度は、正面から桃を見ていた。

「がんばって。……楽しんで」

「うん」

神妙な顔でこくんと頷いてから、桃は堪えきれず微笑んだ。

嬉しくて楽しくて仕方ない。こんなこと、きっともう二度とない。

そんな桃を見て、しょうがないな、とでも言いたげに、桜は苦笑するのだった。