ぽろぽろと大粒の涙を桃が零しはじめて、桜はうっと言葉を詰まらせた。

正直、桃の涙には弱い。

今まで桃が涙を流したときに、桜が勝てた試しはない。

「一回だけでいいから……! 名前もわかんないの、もう一度、一目見るだけだから……!」

「だ、だめだめだめ」

「なんでぇ……?」

「だって、普通そんなことしちゃだめでしょ」

「一回だけならバレないよ。だって、私たち、そっくりだもん」

「桃、うちの授業についていけないでしょ!」

「授業についていけたらいいの!?」

「そ、そうは言ってない!」

「桜ちゃん、お願い。なんでもするから。一生のお願い!」

「…………っ!」

こうして、なんだかんだと可愛い妹に弱い桜は、桃のお願いを聞き入れてしまうのだ。

ゴールデンウィークが明けて間もない、五月のことだった。