「……よっし!」

桃は鏡の前で拳を握りしめている。

髪は手入れを始めたので、数日前よりは指通りがよくなった。桜がポニーテールに結ってくれて、背中の上を流れている。

ナチュラルメイクも施した。昨日はパックをしたので、いつもより肌の調子がいい。リップはお気に入りの桃色である。

白の半袖にワイドパンツを合わせている。エメラルド色。五月にふさわしいと思う。

「……桜ちゃん! 変じゃない!?」

「ないない。大丈夫」

返ってきた言葉が棒読みで桃は膨れるが、桜は桜で自分の髪と格闘している。

「……桜ちゃん、どこに出かけるんだったっけ?」

「友だちの家」

ちらりと時計に目を走らせ、桜は桃を鏡越しに見た。